
<編集者のおすすめ>『在来馬8種めぐり』佐藤円著
出典: 産経新聞 (原典を開く)
ニュース概要
緑の草原や、夕暮れの海を望む丘の上で、仲間と鼻先を寄せ合って草を食(は)み、寝転ぶ馬たち。古くから日本の風土で育まれ、暮らしてきた「在来馬」の写真集です。小柄で頭が大きめで、何とも愛らしく、のどかな雰囲気。「馬の写真集ね」とサラブレッドの黒光りする筋肉美を思い描いて本を開くと、良い意味で力が抜けます。
解説
日本の美しい風景の中で、ゆったりと過ごす馬たちの姿を捉えた写真集『在来馬8種めぐり』が注目を集めています。この写真集に登場するのは、私たちが競馬などでよく目にする、すらりとした体格のサラブレッドとは少し違う、日本の風土で古くから暮らしてきた「在来馬」たちです。
在来馬とは、その名の通り、日本で昔から飼育されてきた馬たちのこと。北海道和種(ドサンコ)や木曽馬、対州馬(たいしゅうば)、与那国馬など、現在8種類が確認されています。これらの馬たちは、サラブレッドのような速く走るための改良を目的としてきたわけではなく、農耕や荷物の運搬、あるいは乗馬など、日本の人々の暮らしに寄り添う形で進化してきました。そのため、体は小柄で、頭が少し大きめ。がっしりとしていて、どこか親しみやすい、愛嬌のある姿をしています。
写真集を開くと、緑豊かな牧草地で仲間と寄り添ったり、夕焼けに染まる海辺の丘で草を食む姿が目に飛び込んできます。彼らの姿は、慌ただしい現代社会を生きる私たちに、忘れかけていた「ゆったりとした時間」を思い出させてくれるかのようです。競争とは無縁の、穏やかな表情を見せる在来馬たちからは、心が和むような温かさが伝わってきます。
現代において、在来馬たちはその役割を大きく変えています。かつては労働力として不可欠だった彼らですが、機械化が進んだことでその数は激減しました。しかし、近年では観光資源として、あるいは地域文化の象徴として、その価値が見直されつつあります。例えば、乗馬体験やセラピー活動、地域のお祭りへの参加などを通じて、人々と触れ合う機会が増えています。彼らの存在は、単なる動物というだけでなく、日本の歴史や文化、そして自然との共生を考える上で、非常に大切な存在と言えるでしょう。
この写真集は、在来馬たちの素朴で力強い美しさだけでなく、彼らが暮らす日本の豊かな自然、そして人と馬が築いてきた歴史をも感じさせてくれます。彼らの穏やかな姿は、私たちに「速さや強さだけが価値ではない」という大切なメッセージを伝えているのかもしれません。日々の喧騒から離れ、少し立ち止まって、彼らの姿に癒されてみてはいかがでしょうか。
関連データ
今後の予測
今後の在来馬を取り巻く状況は、いくつかのシナリオが考えられます。
まずポジティブなシナリオとしては、今回の写真集のようにメディアで取り上げられることで、在来馬への関心が高まり、保護活動や観光活用がさらに活発になる可能性があります。特に、SDGsやサステナビリティへの意識が高まる中で、地域固有の文化や生物多様性の保全という視点から、在来馬の価値が再評価される動きが加速するかもしれません。これにより、乗馬体験施設やセラピー活動の増加、関連商品の開発などが進み、在来馬の飼育頭数の維持・増加につながることも期待されます。
一方で、課題も残ります。飼育者の高齢化や後継者不足、飼育コストの増大は依然として大きな問題です。もし新たな担い手や安定した資金源が確保できない場合、現状維持が難しくなり、頭数が減少していくリスクも考えられます。また、特定の地域での活用にとどまり、全国的なムーブメントに発展しない場合は、一部の品種が存続の危機に瀕する可能性も否定できません。
将来的には、行政やNPO、地域住民が一体となった包括的な保護・活用プロジェクトが成功し、在来馬が日本の文化と自然を象徴する存在として、より多くの人々に愛され、持続的に共生できる社会が築かれることが望まれます。
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